池田工芸の「王者の緑クロコダイル」

　創業80年記念で染め上げた、「王者の緑」。
　そのテーマは、「誰も見たことのない緑のクロコダイル」。

池田工芸は、1942年に創業。クロコダイルという素材を国内でもいち早く取り入れ、クロコダイル専門の職人軍団の手で数々の作品をお仕立てしてきました。
そんな池田工芸が2022年、創業80年の記念として一から染め上げたのが、「王者の緑クロコダイル」です。

「誰も見たことのない緑のクロコダイルが欲しい」。
そんなお客様からの声も受け、私たちが今回こだわったのは、どこにもない「深い緑」。

緑といえば、古来から縁起の良い色。そしてクロコダイルも、“掴んだら離さない”顎の力から縁起物として愛されています。
それ故に、緑のクロコダイルの財布を探しているお客様は多いのですが、世の中にある緑のマットクロコダイルには、深みのあるものはなかなか見当たりません。

池田工芸の艶仕上げ「ブライトグリーン」が鮮やかさを極めた緑なら、今度は深みを極める。世の中に一般的に存在する緑では満足できない、強いこだわりを持つ方のための、見たことない緑のクロコダイル。

そんな唯一無二の深い緑を染め上げることこそ、80年の節目にふさわしい挑戦だと考えました。

　理想の緑としてイメージしたのは、
　力強く美しい、最強生物「恐竜」のロマン。

染める際に大切なのは、「どんな色にしたいか」というイメージをタンナーと共有し、アイデアを出し合うこと。理想の色というのは、理想のイメージがあってはじめて完成するからです。

今回目指すのは、緑の「深み」。さらにその深みというものを分解すると、「力強さ」と「美しさ」になるのではないか。
そんな話を進めていくうちに、私たちの頭に浮かんできたのが、最強生物「恐竜」の姿でした。

最強の顎で獲物を仕留める圧倒的な「力強さ」ももちろんですが、それだけではなく、古代の草原をのし歩く壮大な姿や、深い森に潜む神秘的な姿。そんな「美しい緑」のイメージも併せ持つのが、恐竜だと思ったのです。

最強の顎を持ち、“皮革の宝石”と称されるほどの美しさを持つクロコダイル。
それならば、クロコダイルよりも圧倒的に強大な恐竜は、もっと力強く、もっと美しいのではないか。
無限の想像をかきたてる恐竜のイメージに、タンナー、職人、そして当主の私も、ロマンが止まりませんでした。

恐竜の緑など、想像に過ぎません。しかし、どこまでも想像を膨らませて染め上げたからこそ、どこにもないほどの力強さと美しさを兼ね備えた、ひと目で王者たらしめる緑に仕上がったのだと思います。

無限のロマンを追い求めることこそ、ものづくりの楽しさであり、真骨頂。「自分たちがワクワクするもの、そして未だ世にないものを生み出したい」という想いのもと、職人やデザイナーが一体となって挑んだ、「王者の緑」です。

　緑の「深み」を表現するにふさわしい、
　世界最高品種「ポロサス」を使用。

今回の恐竜の緑、名付けて「王者の緑」を完成させるためにタッグを組んだのは、「藍染めクロコダイル」を共に開発したタンナー。池田工芸とは長年に渡る信頼関係があり、クロコダイルを知り尽くした染色職人です。

クロコダイル革には、一枚一枚個性があります。さらに、気温や湿度の繊細な変化によっても、染め上がりの色目は変わってしまう。理想の深い緑を安定的に染め上げるために、染色前の染料を調合する段階から幾度となく調整を重ね、当主が理想とする緑色に近づけました。

素材には、クロコダイル革の中でも特に斑の並びが美しく、流通量の少ない最高品種・ポロサスを使用。
ヨーロッパでもトップのメゾンブランドと共有して、皮革産業の中心地・フランスから仕入れているため、革の質は世界最高クラス。ポロサスは、ひとつひとつの斑の美しさはもちろんですし、染色した際に奥深い濃淡が出やすい品種でもあります。そのため、緑の「深み」を表現するには格別のふさわしさを持つ革なのです。

完成した革は、斑ひとつひとつにほんのり濃淡が生まれ、メジとのコントラストが際立った、力強く美しい緑。最高品種「ポロサス」ならではの斑の美しさも相まって、
「最強こそ、美しい。」
──そう感じさせるほどの革に仕上がりました。